日本車の中で、最も長い伝統に支えられている車種がクラウンだ。初代モデルは1955年に発売され、今でもトヨタの主力車種としてラインナップされている。
初代クラウンは日本初の本格的な高級量産乗用車として誕生しており、トヨタの、そして日本車の中心的な存在になっている。
そのクラウンの売れ行きが最近は伸び悩んでいる。
国産セダンでは独り勝ち状態にあるが、デビュー時の勢いはない。デビュー後初のフル販売となった2019年の販売台数は 対前年比が71.8% となっていて、クラウンとしてはありえない販売動向となっている。
その理由はどこにあるのか? クラウンに打開策はないのか? クラウンの現状を渡辺陽一郎氏が考察する。
文:渡辺陽一郎/写真:TOYOTA、ベストカー編集部
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国産セダンで独り勝ちも苦戦が続く
現行型クラウンは15代目として2018年6月にフルモデルチェンジされた。プラットフォームはレクサスLSと共通化され、走行性能を大幅に引き上げた。トヨタは「発売から1カ月後に3万台を受注した」と発表している。
この後も2018年7月から2019年2月頃までは、前年に比べて3倍前後の売れ行きを保ったが、2019年3月から5月には2倍程度に下がった。
前年の2倍といえば好調に思えるが、比べる相手がフルモデルチェンジ直前の販売実績だから、2倍では少ない。販売ランキング順位も下がり、2019年4月の売れ行きは2442台で、ハリアーを下まわった。
その結果、2019年1~6月の1か月平均の登録台数は3642台だ。2018年6月にフルモデルチェンジした時点の月販目標は4500台だから、発売直後から目標を下まわった。
ちなみにメーカーが公表する月販目標は、その車種が生産を開始してから終了するまでの生涯的な平均値とされている。
発売から長い期間が経過すれば売れ行きは下がるため、発売直後には目標を超えなければならない。クラウンの月販目標は4500台だから、発売直後の2019年1~6月頃には、6500台程度は売る必要がある。それが3642台では、モデル末期まで含めた平均値になると、4500台の目標を大幅に下まわってしまう。
2019年1~12月の登録台数は、対前年比が71.8%だから、マイナス傾向が一層確定的になった。1カ月の平均の登録台数は3010台だから、月販目標の67%にとどまる。
築き上げた伝統をすべて捨てた!?
販売が伸び悩む原因として、現行クラウンの路線変更が挙げられるだろう。
まず外観は、ボディ側面のウィンドウが3分割される「6ライト」形状になった。これに伴ってリア側のピラー(柱)とウィンドウも大きく寝かされ、外観を横方向から見ると5ドアハッチバックのように受け取られる。
従来のクラウンは、居住空間とトランクスペースが明確に区分されたセダンの典型だったから、ユーザーによっては違和感が生じる。
インパネも液晶モニター画面が上下に二分割されている。
タッチパネルで操作する今日のクルマに多いタイプだが、クラウンのユーザーは先代型の時点で平均年齢が65~70歳に達していた。従来型のスイッチを廃止して画面のタッチに変更すると、使いにくく感じることもあるだろう。
運転感覚は、走行安定性が高まった代わりに、乗り心地が硬めになった。よし悪しではなく性格の違いとして、従来のリラックスして移動できる感覚は薄れた。
走行安定性、つまり危険回避時を含めた安全性の向上は大きなメリットをもたらすが、豪華さと快適性を重視する従来のクラウンとは雰囲気が違う。
このように現行クラウンはデザインと運転感覚を変更したから、バリエーション構成も変化した。40年以上にわたって親しまれた豪華指向のロイヤルサルーンを廃止して、RSというスポーティグレードを主力に据えた。
エンジンは直列4気筒2Lターボ、2.5Lハイブリッド、V型6気筒3.5Lハイブリッドの3種類で、メーカーによると「最も販売比率が高いのは2.5LハイブリッドのRS」だという。クラウンのイメージリーダーもスポーティなRSになった。
最大のライバルはアルファード
こういった「クラウンの改革」は、先に述べた高齢化するユーザーの年齢を下げるために行われたが、裏目に出たとも考えられる。販売店にクラウンの売れ行きを尋ねると、以下のような返答だった。
「以前はクラウンがトヨタの頂点に立つクルマだったが、今はセダンを全般的に売りにくくなった。特に現行クラウンのトランクスペースには、ゴルフバッグが入りにくい。ゴルフバッグにもいろいろなサイズがあるから一概にいえないが、従来型に比べると必要な人数ぶんのゴルフバッグが入らず、購入を諦めたお客様も少なくない」という。
クラウンを諦めたユーザーはどうしているのか。
「最近はクラウンからアルファードに乗り替えるお客様が増えた。内外装ともに豪華で、乗り心地もいい。しかもTVのニュースなどで、政治家や企業の重役がアルファードに乗っている様子が報道され、イメージもよくなってきた。クラウンにとって一番の競争相手は、アルファードかもしれない」と説明した。
ドイツ車に流れるユーザも!!
現行クラウンを運転すると、走行性能の優れたセダンになったが、メルセデスベンツEクラスに近付いたことを感じる。そうなると予算に余裕のあるユーザーなら、クラウンではなく、本場のEクラスやCクラスを選ぶだろう。
クラウンで売れ筋になるハイブリッドRS(2.5L)の価格は551万6500円だから、メルセデスベンツE200dアバンギャルドの757万円でも、さほど高くは感じない。C180アバンギャルドなら504万円に収まる。
走りで選ぶならBMW5シリーズ(649万円~)、3シリーズ(452万円~)に流れることも考えられる。
そしてセールスマンが指摘したとおり、アルファードの世界観は、豪華さと快適な乗り心地を重視した従来のクラウンに近い。
アルファードがセダンではなくミニバンであることに、マイナスのイメージを持たなければ、アルファードのほうがユーザーの好みに合う場合もある。
アルファードにも2.5Lのハイブリッドが用意され、2列目に豪華なエグゼクティブパワーシートを装着したG・Fパッケージの価格は550万7000円だ。クラウンハイブリッドRSとほぼ同額になる。
そうなるとオーナーが後席に座る使い方をする場合、クラウンではなくアルファードが選ばれることも多いだろう。
またオーナー自身が運転するドライバーズカーとしては、ドイツ車風味の現行クラウンよりも、本場のメルセデスベンツが魅力的に感じる。
このようにクラウンのニーズが、上級ミニバンのアルファードと、メルセデスベンツなどの欧州車に分散されて、現行クラウンの売れ行きが下がってきた。
トヨタの国内市場に対する本気度が試される
このような経緯もあり、クラウンは2019年7月にベーシックなSをベースにした買い得な特別仕様車のエレガントスタイル、10月には同じくSをベースにしたスポーツスタイルを設定したが、販売の回復には至っていない。
以上の流れを見ると「現行クラウンは失敗作か!?」という話になりそうだが、ある程度は想定されていたことだろう。
現行クラウンはユーザーを若返らせるために、外観から乗り心地、グレード名まで、過去から継承した特徴を手離したからだ。そうなると販売面でマイナスが生じることは十分に考えられる。
それでもトヨタは、発表時に月販目標を4500台と公表していたから、実際のマイナスは予想以上だったことになる。
注目すべきは今後の対応だ。デザインの軌道を修正しながら、現行型の優れた走行安定性に従来の快適な乗り心地も取り戻して、新しいクラウンの時代を切り開くのか。それともこのままドイツ車風味の日本車であり続け、売れずに終わってしまうのか。
新たなマイナス要素も気になる。2020年5月から、トヨタが全国的に全店で全車を扱う体制に移行することだ。
東京地区以外では4系列の区分を残すが、クラウンのトヨタ店でも、アルファードとヴェルファイアを扱うようになる。今までのクラウンはトヨタ店の専売車種だったが、今後はクラウンからアルファードへの乗り替えも容易になる。
トヨタの開発者は「クラウンは、お客様、トヨタ店の皆様、トヨタ自動車が力を合わせて育てたクルマだと思っている」と語る。この貴重な体制が失われてしまう。
トヨタは今後のクラウンをどのように発展させるのか、その成り行きからは、トヨタの国内市場に対する本気度も見えてくるだろう。
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January 25, 2020 at 05:00AM
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