アメリカのラスベガスで開催されたCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー:2020年1月7~10日)でソニーが自社の自動運転システムを搭載したEVコンセプトカーである“Vision-S”をサプライズ発表した。
近い将来実現するであろう自動運転技術については、自動車メーカーだけでなくいろいろなメーカーが参入して盛り上がりを見せているが、ソニーが試作車とはいえオリジナルの自動運転車両を発表したのには奥深い理由があった!!
CESで公表された“Vision-S”を取材した鈴木直也氏が考察する。
文:鈴木直也/写真:鈴木直也、SONY
【画像ギャラリー】ソニーVision-Sの内外装の仕上げは試作車のレベルを超越!!
驚くほどの完成度
毎年正月明け、新年早々にラスベガスで開催される“CES”。
本来は家電見本市として始まったのだけれど(だから、名称はいまだコンシューマー・エレクトロニクス・ショー)、最近ではAI、自動運転、空飛ぶクルマなど、世界を代表するハイテク見本市としてメジャーな存在だ。
近年、ぼくはこのCESの面白さにハマって取材に通っているのだけれど、たぶん今年最大のサプライズだったのがソニーのEVコンセプトカー“Vision-S”。
まさか、ソニーがここまで完成度の高いクルマを持ち込んでいるとは誰も予想できなかったから、ビッグサプライズでプレスカンファレンスは大いに盛り上がった(残念ながら、ぼくは別件取材中でアンベールには間に合わず)。
市販はしない!?
この「ソニーがEVを出展してるぞ!」というニュースはCES会場をアッという間に駆け巡り、ぼくもおっとり刀でソニーブースに駆けつけたのだが、着いたときには予想どおり黒山の人だかり。じっくり取材するには、翌日まで待たなければならないといった有様だった。
で、人垣をかき分けてその実車“Vision-S”を見ての感想だが、まずは「えらく完成度が高いじゃないの!」とビックリした。
オーバルシェイプをテーマとしたエクステリアデザインそのものは、ハッタリのないオーソドックスな造形だが、硬質感のある面の構成、各部パネルのチリ、質の高いインテリア造形など、すべてにわたってクォリティが高い。
内外ともキッチリ造り込まれた現実的なデザイン構成は、コンセプトモデルというより量産試作車と呼ぶのが相応しいレベルにある。
いきなり、こんなに完成度の高いEVを見せられたら、誰もが「ついにソニーも車業界に進出か?」と早合点するところだが、よくよく取材してみるとどうも「さにあらず」らしい。
ソニー製のセンサーの優秀さをアピール
プレスカンファレンスでは、社長兼CEOの吉田憲一郎氏や担当役員の川西泉氏などが質問に答えていたのだが、そこでの談話を総合すると、Vision-Sは自動車用各種センサーのショーケースで、市販予定ナシの試作車というのが正解のようなのだ。
機能部分におけるVision-Sの特徴は、クルマの内外に張り巡らせた合計33個のセンサーで、自動運転を視野に入れた高度な安全機能を確保するというもの。
33個のセンサーのうち、室内監視やドラレコを含む13個のカメラがソニー製CMOSセンサー。他に、前方と左右のソリッドステート・ライダーと、全周360度にわたって配置された17個のミリ波レーダー/超音波センサーが装備されている。
実は、最近のソニーの業績を牽引しているのは、画像センサーに代表されるデバイス類で、とりわけ夜間低光量下での特性に優れるCMOSセンサーが引っ張りだこ。
デンソーがトヨタ・セフティセンス2用にソニー製センサーを採用したことでもわかるとおりその実力は高く評価されていて、他メーカーでも「ソニーのセンサーが優秀」というエンジニアが多い。
しかし、スマホカメラにおいてはソニーの画像センサーは圧倒的なシェアを誇っているものの、自動車用では「シェアはまだこれから」というのが現状。
ソニー製センサーの優秀さを日本勢以外のメガサプライヤーへアピールする。ソニーがわざわざこんな完成度の高いEVを造った理由としては、そんな背景もあるんじゃないかと思われる。
メガサプライヤーの技術の集合体
いっぽう、クルマそのもののハードウェアに関してはソニーは開発/製造のノウハウを持っていないから、マグナの協力を得たと発表されている。
資料を見ると、電池を収めた薄いボックス状のプラットフォームとか、前後ダブルウィッシュボーンのサスペンション、前後に搭載される出力200kWのモーターなど、構成はこの種のプレミアムEVの文法どおりといった印象。
マグナといえばトヨタスープラ/BMW Z4の生産担当会社として日本でも知られるようになったが、開発委託も生産委託もどちらも可能なユニークな会社だ。
仮にソニーの気が変わって市販することになったとしても、マグナならその要求に応える実力を備えている。
また、マグナ以外でも、ボッシュ、コンチネンタル、ZFなどおなじみの欧州系メガサプライヤーが協力していて、ステアリング、足回り、電池やそのコントローラなどを担当している。
この開発体制はある意味「丸投げ」とも言えるもので、異業種のソニーがクルマを造るにはやむを得ない選択だったわけだが、この体制で生産までマグナに任せたとしたら、おそらくは相当なコスト高。クルマを売って利益を出すのは難しそうだ。
このあたりも、ソニーが「このクルマを売るつもりはありません」としているひとつの理由と思われるが、すでにレッドオーシャン化しつつあるプレミアムEV市場を見るにつけ、それが正解。
得意のセンサービジネスで自動車業界に食い込むためのアドバルーンとして造ったのが、このVision-Sと理解すべきなんでしょうね。
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January 16, 2020 at 11:00AM
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