朝晩の冷え込みがつらい季節になってきましたね。クルマにも暖房を入れている人も多いことと思います。
寒くなってくると気になるのはクルマの暖機運転です。本当に暖気運転は必要なのでしょうか? 特に最新のハイブリッド車でも暖機運転をしなければいけないのでしょうか?
エンジンをメインに発進時や低速走行時にモーターを使うトヨタのハイブリッド車や、走行はモーターのみでエンジンを発電機として使う日産のe-POWER、小さいモーターを補助的に使うマイルドハイブリッド車など、ぞれぞれ暖機運転が必要なのでしょうか? 自動車テクノロジーライターの高根英幸氏が解説します。
文/高根英幸
写真/ベストカーWEB編集部 Adobe Stock
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昔はエンジン始動、暖機運転は走行前の儀式だった
1960年代のクルマを運転するためには「儀式」が必要だった。知らない人が多いと思うので簡単に説明しよう。
まず、イグニッションキーを捻ってオンにして燃料ポンプの作動音を確認。チョークレバーを引く(あるいはアクセルペダルを軽く2回ほど踏む)。それからキーをさらに捻ってセルスターターを回し、すぐにエンジンが目覚めなければ、アクセルペダルを軽く合わせてやる。
すると「ブオンッ」とエンジンが目覚めるが、しばらくアイドリングを上げて(チョークレバーをそのままにして)、水温計の針が動き出すまではアイドリングしてエンジンを暖機運転してやらないと、プラグがカブってまともに走らなかったのだ。
1970年代になって排ガス規制によりインジェクションが登場し、そんな儀式の必要性は減ってきたけれど、暖機運転は必要だった。
エンジンを暖めることで各部品間のクリアランスを適性にし、エンジンオイルの粘度を下げることで隅々までオイルを行き渡らせることで、エンジン部品の摩耗を抑えることができるからだ。
最近までエンジンにとって暖機運転は必要な行程だった。けれどもハイブリッド車はイグニッションボタンを押してもセルモーターは回らず、スタンバイ状態を示すのみ。
走り出すと必要に応じてエンジンが始動し加速させるが、気が付くと停止していたりする。暖気運転はもう必要なくなったのか、と思うユーザーも少なくないだろう。
アイドリングや暖機運転は、エンジンのことを考えると必要なことだ。しかし環境問題を考えた時、排気ガスはできるだけ抑えたい。
日本では地域によって停車中のアイドリングが規制されているが、環境問題にシビアな国民性の地域では、さらにアイドリングを厳しく規制している。
例えばドイツでは、何気なく人家の周囲でアイドリングしながら停車していようものなら、そのお宅の住人が飛び出してきて「私を排気ガスで殺す気か!」と怒られることもある。
笑い話のようだが、これは実際にあった話だ。北欧では常時点灯のライトを利用して停車中のアイドリングが取り締まりを受けることも珍しくない。
エンジンも早く暖機運転が済む仕様へ改善された
そんな状況であるから、自動車メーカーもできるだけ暖機運転を減らすよう、エンジンの仕様を改良し続けている。
エンジン部品の加工精度が上がって、慴動部のクリアランスもより均等で少ないものになった。
潤滑するエンジンオイルも油膜の薄い、サラサラで粘度の低いものにすることでオイルポンプの駆動損失や撹拌抵抗を抑えている。
その代わりピストンのスカート部など摩擦が大きい場所にはモリブデンなどをコーティングして、摩擦損失も抑えているのだ。
それでも設計通りの状態でエンジンを運転させるには、適正な温度帯にエンジン部品や油温が上昇していることが大事だ。
そのためエンジンを頻繁に停止させるために温まり難いハイブリッド車や、エンジン車の寒冷地仕様車には、マフラーのサイレンサー手前に排気ガスの熱を回収するヒートコレクター(排熱回収装置)を備えて、少しでも多く熱を回収するように工夫されている。
そうした事情は変速機も同様で、特にCVTは油圧によって緻密に制御されていることから、油温の管理が非常にシビアになっている。
したがって冷間時のクルマは、エンジンが発生する熱を冷却水によってヒーターと変速機までが要求し、さらには排気ガスによって燃焼室と触媒、ターボ車ならターボチャージャーを暖める必要があり、熱の取り合い状態を繰り広げているのだ。
これをサーマルマネージメントといって、エンジンや変速機以外にも様々な部品が熱管理されている。
特にハイブリッド車ではモーターの電力を制御するPCUの発熱量が相当に大きく、専用の水冷装置を備えているほどだ。
ちなみにLEDヘッドライトも発光素子の発熱量が大きく、発光素子の寿命を延ばすためにLEDライトの基盤には冷却するための工夫が施されている。
最近のクルマはエンジン車もハイブリッド車も、冷暖房やエンジン水温、駆動用バッテリーの充電量によってアイドリングなどエンジンの運転状態をECUが制御している。
その制御具合は開発エンジニアが、最適な状態になるようにさまざまなテストを繰り返すことによって決定しているから、基本はクルマ任せにしておいて大丈夫だ。
実際、トヨタのお客様センターでは、トヨタ車のハイブリッド車に暖機運転は必要なのか、という問いに対して、
「ガソリンエンジンが冷えているときは、ガソリンエンジンの始動/停止を自動的に行いますので、暖機運転は必要ありません。なお、短距離走行のくり返しは、暖機運転のためのガソリンエンジン始動が頻繁に行われることになりますので、燃費の悪化につながります」と案内している。
ホンダはハイブリッドに限らず全車を対象とした暖機運転について、
「ホンダのクルマは、極寒地など一部の特殊条件を除いて、冬でも暖機運転をする必要はありません。ゆっくり走行しながらのウォームアップで十分です」としている。
冬季には暖房を早く効かせたいが、温風を出すためだけにエンジンを暖めるのは燃費や環境に良くないから、EV同様、ハイブリッドの寒冷地仕様車には電力で暖めるPTCヒーターが備えられている。寒がりのドライバーなら、寒冷地仕様車を選ぶのがお勧めだ。
シリーズハイブリッドの日産ノートやセレナのe-POWERも、冷間時には暖機運転していつでも再始動に備える仕様になっているから、クルマ任せにしておいてOK。
e-POWERは、エンジン暖機中には水温が40℃を超えるまでは1300rpmあたりの回転数で暖機する。
また、暖房をオンにした時に熱源となるエンジン水温を上げるためや、電池容量が減少した場合など、20km/h位でエンジンが始動することがたまにある。
エンジンを労るため、冷間スタート時は急加速を控えてやった方がいい程度だ。ヒーターを早く効かせたいなら温度設定を26℃以上にするといい。
加速時にモーターがアシストするマイルドハイブリッド車の場合も、冷間時にはモーターのアシストだけではなくエンジンの負担も増すため、やはり冷間時の加速は緩やかにしてやった方がいい。
マイルドハイブリッド車の多いスズキでは、各車の取り扱い説明書にこう記している。
「暖機運転は適切に次のような場合は、数十秒から数分程度の暖機運転を行なってから、走行を開始してください。
長期間、お車を使用しなかったとき、寒冷地などで極低温(-10 °C以下を目安)にあるとき、上記以外の場合はエコドライブのため、エンジンを始動したらすみやかに走行を開始してください」。
結論/長く大事に乗りたいのであれば暖機運転は必要
ここで考えたいのは、重要視するのは燃費なのか、それともトータルでのクルマ関連の出費やCO2排出なのか、ということだ。
燃費を伸ばすことにひたすら情熱を注ぐのであれば、アイドリングストップしてできる限りエンジンの運転時間を減らすのもいいが、エンジンの始動回数が増えることは、エンジンはもちろん、エンジンオイルにもバッテリーにも負担がかかる。
もし自分のクルマを長く大事に乗りたいのであれば、エンジン車の場合は冷間時にはエンジン始動後1、2分はアイドリングさせて冷却水やエンジンオイルを循環させて、その後も5分くらいはゆっくりと走行する”暖機走行”を行なってやるといい。
アイドリングストップのキャンセルスイッチを活用するなど積極的にエンジンを暖めてやるような操作もありだ。
ハイブリッド車の場合には基本的には暖機運転は必要ない。アイドリングをしたままでの暖機運転は環境面からも不要。ゆっくりと各部をなじませる暖機走行を行うといいだろう。
ただし、例外もある。マイナス10℃を下回るような厳寒の地域での朝一番の始動時などは、オイルの循環が悪くなることがある。
また、長期間クルマに乗らなかったときなども、エンジン内のオイルが下がっており摺動する金属同士が密着している状態にあるため、エンジンを始動してすぐに走り出すとエンジン内にダメージがおよぶ可能性があるので、わずかな時間だけでもアイドリングしたほうがいいともいわれている。
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December 03, 2019 at 04:27PM
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