ハイブリッド車の誤発進による事故が後を絶たない。こうした事故は、アクセルとブレーキのペダル踏み間違いによる誤発進が主な原因とされているが、そもそもハイブリッド車特有のシフト操作が、誤発進の原因ではないか、とも言われている。
そこで、改めてトヨタ、日産、ホンダ、三菱、各社のハイブリッド車や電気自動車の多くに採用されている、いわゆる“電子制御シフト”のシフトレバーの配置と操作方法を各社に質問し、検証するとともに、使い勝手や操作方法の側面から、ハイブリッド車のシフトの長所と短所を捉え直してみた。
文/岩尾信哉
写真/ベストカーWEB編集部
【画像ギャラリー】各メーカーのHV、EVのシフトレバーはどう違う?
ハイブリッド/EVに多い「電制シフト」
プリウスをはじめとしたトヨタのハイブリッド車、日産ではノート/セレナのe-POWERや電気自動車のリーフ、ホンダもHVのみが用意されるレジェンドやアコード、最新仕様といえるインサイト(日本仕様)からガソリン車とともにハイブリッド車を設定したフィットやステップワゴンやCR-V、クラリティPHEV、三菱ではアウトランダーPHEVなど、電動車両では電子制御シフトは多くのモデルに設定されている。
電動化車両の特徴ともいえる「電子制御シフト」に操作した経験がある方なら、最初は戸惑いを覚えたに違いない。
そもそもこの電子制御シフトは、どのようなシステムになっているか、2代目プリウスの電子制御シフトの図が公表されているので見ていただきたい。
トヨタが2003年9月に2代目プリウスに日本車として初めて「エレクトロシフトマチック」として開発、以降のトヨタのハイブリッド車両に採用を拡大してきた。
2代目プリウスには、THS-IIとしてシステムの大幅改良を行い、トランスアクスルにも改良が重ねられ、トヨタ車初の「エレクトロシフトマチックシステム」を搭載した。
シフトレバーを操作すると、その操作信号をハイブリッドコンピューターが受信し、その受信信号をもとに各シフトポジションの切り替えを電気的に行うもの。
また、インパネへの「P」ポジションスイッチ配置とトランスアクスル本体へのパーキングロックアクチュエーターの採用で、「P」ポジションへの切替えがワンタッチで行え、インジケーターで切替状態が確認できる電気式パーキングロック機構を実現した。
トヨタ車ではプリウスを除いたほかのHVでは、HV専用仕様のアクアはジグザグにゲートを刻んだ一般的なフロアシフトを採用するなど、他のハイブリッド仕様車は標準車両とのデザイン上の差が生じないよう配慮されている。
シフトレバー式、ボタン式がある
電子制御シフトがデザイン上で有利なのは明らかで、機械的なリンク(EVやハイブリッドでは従来のようなトランスミッションさえも)存在しないゆえ、多少乱暴な言い方をすれば、シフトレバー(セレクター)をセンターコンソールやインパネのどのような位置にも基本的に設定可能だ。
操作パターンについては、日本車メーカーでは“ほぼ” 機能的に統一され、シフトポジションの選択後は中立ポジションの位置に戻るように設定されている。
“ほぼ”と書いたのは、ホンダは現行のレジェンドやNSX、アコード(ハイブリッド)などから新機軸を打ち出し、電子式パーキングブレーキをPスイッチとして用意したうえで、N(ニュートラル)、D(ドライブ)、R(リバース)の各ポジションの選択をボタン(スイッチ)式としているからだ。
2019年10月から開催された東京モーターショーで発表された新型フィットもハイブリッド機構がダブルクラッチ+1モーター方式の「i-DCD」と呼ばれる“従来型”から最新の「e:HEV」に変更されるから、シフト機構も変わると想像できる。
回生ブレーキの効き具合を強めるシフトポジションとして、トヨタ/日産/三菱は「B」を用意しているが、ホンダではの「i-DCD」を搭載するフリードやステップワゴンは「L」「S」ポジションを設定しており、前述のボタン式では採用していない。
問題は「中立ポジション」にあり?
操作方法に関しては、慣れてしまえばさほど複雑ではない。パワースイッチを押してシステム作動(READY)状態として、中立ポジションにあるシフト(セレクト)レバーがP(パーキング)ポジションを選択していて「ブレーキペダルを踏んで」停止状態であることを確認する。
次にシフトレバーをゲートに沿って右にずらしたうえで、前方に押し込めばR(リバース)に、車両後方に引けばD(ドライブ)に入る。Dポジションから車両後方にずらせばB(ブレーキ)に、Dに戻す場合には同じ操作を行うというのが基本操作となる。
いっぽうで、どのような操作してもシフトレバーが中立ポジションに必ず戻ってしまうことが、操作のわかりにくさを助長している。
シフトポジションが物理的に一見して確認できないことが、操作の手順の上で違和感をもたらす要因になっているように思えるのだ。
“誤発進”はなぜ起こり得るのか?
それでは最も電制シフトの特異さが表われてしまう操作を説明しよう。
まずP(あるいはD/Rポジション)からNポジションに入れる時は、「しばらく(そのまま/少しの間)保持」しないと入らない。
Nポジションでブレーキペダルを踏まない、もしくはアクセルペダルを踏んでいると、ビープ音による警告音とともに注意喚起が行われる。
プリウスではディスプレイに「Nレンジに入っています。アクセルを緩めて希望レンジに入れてください」と表示される。それでも警告を無視して、シフトレバーを右に押し続けてもNポジションを選択できる。
さらにドライバーが乱雑なシフト操作を行い(何らかのパニック状態にある場合など)、車両システムが操作を無効と判断した場合には、Nポジションに自動的に切り替わる場合がある。
つまり、上記のように、Nポジションに「意図せずに」入っている状態が起こりうる。
そこで「ブレーキペダルを踏まず」「アクセルペダルを間違えて踏んでいる」状態で、「N→Dへとシフトチェンジ」してしまうと、いわゆる「誤発進」が起こりうることになる。
Nレンジでアクセルを踏み込んだ状態でDレンジに入れた場合、急発進するのか?
それでは、「なんらかの操作で意図せずに」Nポジションに入った状態で、ブレーキペダルを踏まず、アクセルペダルを思いきり踏みこんだ場合に、警告音/表示はあっても、シフトポジションが「N→D」に入れた場合に、実際に急加速するのか?
プリウスに関しては以前にベストカーwebで展開しているので、ハイブリッド/EVを販売しているそのほかの日本車メーカーに以下のような質問を投げかけてみた。
■自動車メーカーへの質問状
●POWER ONの状態で停車および走行中、意図的に(あるいは操作の過多などによって意図せずに)、シフトポジションがN(ニュートラル)に入った場合において、
1/アクセルペダルを踏むと、注意喚起を促すような表示(シフトポジションなど)や警告音(ビープ音など)などが発生するか?
2/アクセルペダルから足を離さず踏みこんだ状態もしくはブレーキペダルを踏まない状態で、シフトポジションを「N」から「D」に変更できるか?
3/「2」の場合において「D」に「変更できる」とすれば、車両はどのように動き、制御されるのか?(停止、微速走行、急発進など)
対象車種はトヨタはプリウス、日産は、リーフとノート/セレナ「e-POWER」。ホンダは「i-MMD」のインサイト/アコード/ステップワゴンスパーダ/CR-V(以上はボタン式)、i-DCDのフィット(現行)/フリードなど、2系統モデル、三菱はアウトランダーPHEVを確認した。
まず、1を見ていくと、トヨタ、ホンダ、三菱では、ディスプレイの表示とともにビープ音などの警告音が発せられる、とのこと。
一方、日産のe-POWER搭載車では警告表示はなく、警告音も発生しない。
2の場合、プリウスが前述のように誤発進の可能性が想像されるように、日産や三菱でもシフトポジションをNからDに「変更可能」との回答を得た。
長押しすれば変更可能という操作の手順を見ても、この3社が基本的に共通の制御を実施しているのではと想像される。
一方で、ホンダは低速状態では「NからDへのシフト操作には、ブレーキペダルON and アクセルペダルOFFの条件が設定されています」(広報部)とされ、“N→D”へのシフトチェンジはできないとのことだ。
そのうえで、3の「N→D」へのシフトポジション変更が可能なトヨタ/日産/三菱の車両の場合は、アクセルペダルの踏み込み量に応じて、車両は走行(発進)することになるが、ホンダは上記の“禁則”制御により、Nポジションのままなので走行できない。
ちなみに、アクセルとブレーキの両ペダルを同時に踏んでしまった場合では、いわゆる“ブレーキオーバーライド”制御がかかるので、基本的にブレーキの作動が優先されるので急発進は起こりえない。
「N→D」への意図しないポジション変更については、シフトレバーの中立ポジションでの乱暴な操作もNポジションへの誤選択を生み出す要因であり、トヨタはハイブリッド車の取扱説明書に「シフトレバーは、ゆっくり確実に操作してください」と念押ししている。
この機能に関しては、日本メーカーは2010~2011年にかけて、トヨタの米国での“急発進騒動”をきっかけに標準化を進めてきた経緯がある。
加えておけば、ハイブリッド/EVではエンジンが停止状態にある場合が多いので、シフトポジションがNなのかDなのか認識しにくいことも、誤操作が起きやすい要因のひとつといえる。
トヨタは決定的な誤操作といえるブレーキペダルの踏み間違いを防ぐために、ハイブリッド車に限らず“後付け”の踏み間違い防止装置を旧型モデルを含めて装着可能な車種を拡大させている。
とはいえ、どれほど機能を進化させたとしても、人が操作する限り、完璧な「フェイルセーフ」(誤操作・誤動作による障害が発生した場合、常に安全側に制御すること)の実現はあり得ないことを頭に置いておくべきだ。
目視できることにもっと配意を!
電動化されているかに関係なく、シフトポジションはほとんどの車両でメーター内などに備わる、いわゆる“インフォメーションディスプレイ”に表示される。
筆者自身、見た目でレバー位置を確認する習慣はそう簡単には捨てきれないから、シフト操作レバーを中立ポジションに戻ることには慣れを必要とした。
ポジション表示が小さく感じられ、位置がわかりにくく咄嗟に確認できないことに不安を覚えるのは、老眼で目の“焦点処理機能”が怪しくなってきたオヤジばかりではあるまい。
文字の大きさや表示位置など、なんらかの目に付きやすい工夫をもう少し施してもよいはずだ。
さもなければ、現在のシフトポジションをATレバー(セレクター)周りにわかりやすい(目視しやすい)表示を設けられればベストではないだろうか。
たとえば、ホンダのボタン式では上端部分が光るために、見た目の上でわかりやすく仕立てられており、Nポジションが独立していることも見識といえる。
各メーカーは開発段階での試行錯誤を繰り替えしているに違いないが、それでも機能を集約しすぎてかえって使いづらくなるといった、ユーザーが戸惑うようなデザイン重視のコンセプトは可能な限り避けてもらいたい。
【画像ギャラリー】各メーカーのHV、EVのシフトレバーはどう違う?
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November 22, 2019 at 11:00AM
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